No.5 2007年10月10日発行 | 日本ナレッジ・マネジメント学会

メールマガジン

No.5 2007年10月10日発行

   
 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 第5号

 

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 日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン
 第5号   2007/10/10
☆☆☆★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★☆☆☆☆☆☆★★☆☆★

編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目次

[学会からのお知らせ]
◆ICサミットとTKF2007の報告について
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

◆学会賞受賞候補者の推薦についてお願い
(日本ナレッジ・マネジメント学会事務局)

[学会員からの寄稿、活動報告]
◆日独 IC Summit 2007 報告
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

[転載記事]
◆メルマガ「クリエイジ」より新刊・近刊ニュース

[特別寄稿]
◆NPO法人国際戦略シナジー学会 特別講演
「兵法に学ぶ経営の道」第四回(最終回)
(アサヒビール株式会社名誉顧問 中條高徳氏)

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◆ICサミットとTKF2007の報告について
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

 日独知的資本サミット(Intellectual Capital Summit 2007)が
9月25日に、ドイツ西南部シュツットガルト近郊ボーデン湖のホテル
で開催されました。今号に報告記事を掲載いたしました。
TKF2007が9月26,27日に、フランス・ニース近郊の学園都市ソフィア
アンチポリスにあるCERAMという大学院大学で開催されました。
こちらは次号に報告が掲載されます。

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◆学会賞受賞候補者の推薦についてお願い

 今年度の学会賞の候補者推薦を下記の要領で頂きたいと思います。
会員各位のご協力をお願い致します。

I 受賞対象の著書
ナレッジ・マネジメントに関する優れた著書で、平成18年10月1日
より平成19年9月30日の期間に公刊されたもの。

II 受賞内容
著者に対して賞状ならびに賞金。

III 推薦の方法
自薦および他薦とし、他薦の場合には出版社を含む。

IV 審査
推薦著書について、学会賞選考委員会において審査する。

V 受賞者の発表
申し込み者に、直接通知する。

VI 申し込み方法・問い合わせ
著書に推薦者の住所氏名と推薦の理由を記した書面を添付の上、
下記事務局へ平成19年11月30日(必着)までに送付する。
原則として返却しない。

日本ナレッジ・マネジメント学会 事務局
〒103-0022
東京都中央区日本橋室町3-1-10田中ビル
(株)日本ビジネスソリューション内

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◆日独 IC Summit 2007 報告
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 岩岡 保彦)

はじめに
9月24、25日に日独 IC Summit 2007 が開催されました。
主催は Wissenskapital Edvinsson & Kivikas GmbHとC. Nagal
Kollegen、座長はMart Kivikas 氏、日本から24名、ドイツから28名、
その他から2名が参加しました。

第一日は、今回の会議の主要なスポンサーになってくれた南西地域
電力会社EnBWの見学でした。
ドイツ連邦国は16の連邦州が、東・中央・西・南西の4地域を構成
しています。南西は一番小さい地域ですが、ベンツ、ポルシェ、ボ
ッシュなどの本社があるシュツットガルト市はじめ、有力企業のあ
る多くの町が存在して、ドイツで最も裕福な地域です。
EnBWは4つの電力会社が合併した会社で、従業員数約2万人、ユーザ
数5万人、電力だけでなくガス、冷・熱、を供給する総合エネルギー
会社です。環境の維持には特別の配慮をしています。しかし風
力・太陽光発電は、未だ3%程度しかありません。
合併当初は経営状況が悪かったのですが、その後の経営努力で最近
は黒字経営になっています。例えば Yellow Strom という黄色のロ
ゴを使ったキャンペーンで、顧客が10数%、販売電力が1百万kWも
増加しました。
若い経営陣が実権を持った2004年に、知的資本(Intellectual
Capital)を調べようと考えて、専任のマネジャーにM. Freitag氏
を指名し、取組みを開始した成果の紹介がありました。先ず4つの
会社が持っていた知識(強み・弱み)を集積して共有する、それを
企業の収益構造と関係付ける、これによって、子会社同士が他社の
優れたやり方を理解し、新しい知識が生まれることはなかったが、
社員皆が一体感を感じてモチベーションが上がったことが最大の成
果だったそうです。知的資本の中では人的資本が最重要と認識し、
その強化育成を重点的に進めています。一緒に働く仲間として、
?オープン、?正直、?フレンドリーの3つが基本と考え、強化育
成の目標として、?経営と社会における競争力、?モチベーション、
?コミュニケーションと組織、?企業文化の4つを掲げています。
戦略策定における重要要因として、3つをあげています
1. Human 専門知識、マネジメント力、やる気
2. Structure プロセス、改善・革新能力、コミュニケーション力、
オーガナイズ力
3. Relation 特に社外(顧客も含む)との関係
アニュアルレポートは、経営報告書と知的資本報告書の2冊構成に
なっています。

見学した発電所には最新鋭の石炭火力があり、特に環境に配慮した
設計になっています。中国や日本など世界中から見学に来るそうで
す。発電所の見学は所長自らが案内説明してくれました。
従来の発電所では冷却塔が大きくて排出蒸気も目立っていましたが、
ぶどうの産地には似つかわしくないとして、高さを30mに押さえ、
ブロアによる強制送気をすることで建設許可が得られたそうです。
ブロア送気の騒音を減らす工夫として外気の取入口に防音材を配置
し、外見のデザインも良く、肝心の騒音もすぐ横を走る国道よりも
はるかに静かになっています。
見学後、ICサミットを開催するバーデン湖のホテルへ、今回の会
議に賛同したバス会社が提供してくれたバスで行きました。所要時
間は2時間弱でした。
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 第2日がICサミット2007の本会議。開会歓迎の辞に引続いて5パネル
構成、終了後に夕食会がありました。発表者の名前を列記します。

0. 開会 Mart KIVIKAS, Claus NAGEL 歓迎の辞
Gerd GERBER, Weingarten 村長
Dr. Rolf HOCHREITER, 連邦経済技術省 (BMWI)
Dr. Birgit Buschmann, Barden-Wurttemberg 州経済省代表
1. Panel 1 : 政策立案者
中原裕彦 経済産業省経済産業政策局
花堂靖仁 早稲田大学大学院教授
土橋秀義 中小機構経営基盤支援部
東條吉朗 OECD経済協力開発機構科学技術産業局経済分析統計課長
Mihaela VINCE 欧州中小企業連盟
2. Panel 2 : 日本の中小企業
柏木武久 昭和電気?代表取締役
北野譲治 イーパーセル?代表取締役社長
中宗憲一 ?センテック取締役
市川弘道 市川商事?代表取締役
田口貢士 ?魁半導体代表取締役
3. Panel 3 : ドイツの中小企業
Rene MULLER, Sparkasse Bodensee, Friedrichshafen(貯蓄銀行)
Bernd GRABHERR, Omnibus Grabherr, Waldburg
Guido PFEIFER, VR-Bank Sudpfaiz, Landau(銀行)
4. Panel 4 : 経理・報告
Prof. Stefano ZAMBON, University of Ferrara, Italy
森田松太郎 KMSJ理事長
福田泰也 東京商工会議所産業政策部
中森孝文 京都工芸繊維大学地域共同センター准教授
小林裕亨 ?ジェネックスパートナーズ取締役
5. Panel 5 : 銀行・投資者
Peter LINDQUIST, First Pension Fund, Stockholm
西田陽介 日本政策投資銀行新産業創造部
Eduardo R. FINGERL, Brazilian Development Bank, Rio De Janeiro
Jean J. MERTENS, European Investment Bank
芝坂佳子 KPMG AZSA & Co

内容に関する印象

開会
単なる挨拶ではなく、村、連邦経済技術省、州経済省ともに夫々の
立場に応じた内容のある説明をされました。

Panel 1
日本政府(経済産業省、中小機構)の活動紹介、用語の共通化に向
けた活動の紹介、OECDが推進する活動の紹介、欧州中小企業連盟の
取り組みの紹介がなされました。

Panel 2
知的資産経営報告書を作成した日本企業5社が、自社の事例を紹介
されました。

Panel 3
ドイツの中小企業に関する知的資本に関する取り組みが紹介されました。

Panel 4
経理・報告をする立場の方々のパネルとして構成されたが、特に
統一的な見解が示されるこではなく、発言者夫々の活動や経験の
紹介が自由になされました。

Panel 5
資金提供をする銀行・投資者の立場の方々の見解が展開されました。

発言者に限らず、サミットに参加した方々が全般的に、知的資本・
資産経営報告書の作成に終わっては大きな意味がないこと、
?組織内に向けては改善・革新方向の確認、動機付けなど人的資産
の強化、に活用し、
?資金提供者など外に向けては、理念、現状、将来への戦略などに
理解を深めて貰い、組織の価値を認めさせるに足る説明に活用する
ことが重要であると考えていることが、休憩や食事中の会話で現れ
ていたことが印象的でした。

今後への期待

今回のような日独の情報交換を毎年継続的に実施したいという考え
が、日独双方から示されました。(文責:岩岡) 以上

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◆メルマガ「クリエイジ」より

新刊ニュース

知財人材スキル標準ガイドブック?戦略的な知財経営の実践
経済産業省経済産業政策局知的財産政策室編 2007年9月
日本経済新聞出版社 B5判 330頁 価格:3,990円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4532490146
企業の知財経営に必須のスタンダード=「知財人材スキル標準」
が経産省で策定された。本書はこのスキル標準の考え方・使い方
をわかりやすく解説する。約280校のスキルカードが見やすいレイ
アウトで一目瞭然!

企業実務家のための実践特許法 第3版
外川 英明著 2007年4月 中央経済社 A5判 364頁
価格:2,940円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4502952702
本書は、主に企業内で知的財産を担当する方々を読者として
想定しています。特許法について入門レベルの方から、専門職
として上級の知識をお持ちの方まで幅広く役立つことを意図
しています。特許実務に携わる上で重要なことは、直面して
いる問題がリスク・マネジメント上どの程度の危険を伴うか
をみきわめることです。本書では、重要判例を網羅的に扱い、
実務における判断の指標として活用可能なレベルで紹介して
います。

知財紛争の経済分析?米国先進事例に学ぶ損害賠償額の算定原則
NERAエコノミックコンサルティング 編 2007年2月
中央経済社 A5判 398頁 価格:5,040円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4502951404
米国のプロのエコノミストが解き明かす。パンデュイット基準、
ジョージア・パシフィック基準など知的財産分野への経済学応用
実例を詳しく紹介。

特許流通ハンドブック
松井 繁朋編著 2006年11月 中央経済社 A5判 644頁
価格:7,560円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=450294260X
知的財産の戦略的活用には、権利取得以外にも、他者特許の
有効活用や自社開発の成果を他者に実施させるなど、他者との
技術移転を通じて実践できることが多く、それは研究開発の
効率性やリスク軽減の上でも重要である。現在、国や地方公共
団体がさまざまな特許流通支援策を実施している。本書はそう
した支援を活用した先端・成功事例をもとに、産・学・官あらゆる
視点から特許流通を成功に導く理論と実務のすべてをまとめた。

新・特許戦略ハンドブック?知財立国への挑戦
鮫島 正洋編著 2006年10月 商事法務 A5判 705頁
価格:6,930円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4785713690
わが国を代表する17名の英知が結集!企業経営、金融、人事など
様々なファンクションとの関連から、知財を論じた画期的な1冊!
企業の命運を握るコンセプト・知識・ノウハウが凝縮。

世界知財戦略?日本と世界の知財リーダーが描くロードマップ
B&Tブックス 荒井 寿光著 カミール・イドリス著 エァクレーレン訳
2006年4月 日刊工業新聞社 B6判 197頁 価格:2,310円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4526056545
知識社会の21世紀。グローバリゼーションの発展、インターネット、
バイオテクノロジーの発達のなか世界の知財戦略は次のステージに
進もうとしている。世界経済発展のため知財は何をすべきか。何が
出来るのか。

不正競争防止法による知財防衛戦略
奈須野 太著 2005年11月 日本経済新聞社出版局 B6判 299頁
価格:2,310円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4532351774
模倣品・海賊版対策、営業秘密の保護強化、罰則強化―。ブランド、
デザイン、ノウハウ、顧客名簿を強固に守る、平成17年度大改正
の生かし方を、改正の当事者が実戦的に解説。

知財ポートフォリオ経営?研究開発戦略の評価と知財M&Aの考え方
三宅 将之編著 2005年4月 東洋経済新報社 A5判 231頁
価格:2,940円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4492601481
技術戦略、ブランド戦略などの「見えざる資産」を可視化し、
マネジメントに活かす新しい手法。

知財戦略経営?イノベーションが生み出す企業価値
岡田 依里著 2003年10月 日本経済新聞社出版局
B6判 263頁 価格:1,680円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4532310792
いくら革新的なアイデアやノウハウがあっても、企業内にそれ
を活かす取り組みがなければ収益と結びつかない。会計利益
には表れない「隠れた実力」を指標化する新たな考え方を構築
した意欲作。
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近刊ニュース

ライセンシング戦略 日本企業の知財ビジネス
高橋 伸夫 編著 中野 剛治 編著 2007年9月30日発売予定
有斐閣 A5判 250頁 価格:2,625円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4641163030
ライセンスをどのように経営戦略に組み込むか。これまで実務や
手続きの側面を扱う書物が多かったライセンス問題を第一線経営
学者がビジネスのあり方を問いつつ分析。編者自身のモティベー
ション論,能力蓄積の考え方に基づく五つの視点がユニーク。

社長になる人のための知財活用の本<米国編>
河野 宗夫 編著 2007年10月21日発売予定 日本経済新聞社
A5判 256頁 価格:2,730円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4532313503
米国で特許紛争など知財をめぐるトラブルに巻き込まれたら
どうするのか? 自社の権利を守る事前対応から、ランハム法
など独特の法体系、陪審裁判への対応まで、経験豊富な第一線
の専門家がポイントをやさしく解説。

知的財産 イノベーションとインセンティブ
スザンヌ・スコッチマー 著 安藤 至大 他訳
2007年11月11日発売予定 日本評論社 菊判 頁
価格:4,725円(税込)
http://www.creage.ne.jp/app/BookDetail?isbn=4535514569
知的財産権とその保護制度について、歴史的な経緯と現在の
制度を解説し、制度設計について経済分析を行う体系的な教科書。
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今日の新刊情報
http://www.creage.ne.jp/app/NewBookInfo
今日の近刊情報
http://www.creage.ne.jp/app/RecentBookInfo

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◆NPO国際戦略シナジー学会 特別講演
「兵法に学ぶ経営の道」第四回(※4回に分けて掲載します。)
(アサヒビール株式会社名誉顧問 中條高徳氏)

【中條】さあ、そこで精神論を説いて、それであとは時間がなくな
ってしまうから兵法。

 まず、生きた例から行きましょう。皆さん方、こういうふうに先
生も立ち上がって世の中を直そうと。そのときの兵法に、まず不作
為の罪というのを説くんですよ。不作為の罪。漢文をやっていない
若い人はちょっと難しくなる。覚えたらすぐだね。これだって「作
業」の「作」だからすることじゃない。これも「行為」の「為」だ
からすることなの。要するに、不作為の罪と言って、やらない罪を
説くわけね。これは兵法で言いますと、作戦要務令の中にも、なさ
ざると。しないことでしょう。遅疑逡巡というのは、世に言うしり
込みですよ。遅疑逡巡するは、社長の最も戒むるところにして、そ
の会社に及ぼす損害たるや、やって失敗したよりも大きいぞと教え
ているわけです。やれというのよ。

 ところが、だんだん学歴が高くなったりすると、理屈が多くなっ
てきて、半歩も踏み出さないのが多くなるんだね。だから私は今、
不作為の罪を説くべきじゃないのかなと。やれと言うのよ。やらな
かったら失敗ゼロだと。しかし、失敗が見えたら、シェーシェー
(謝々)、ダンケシェン、サンキュー、ありがとう。なぜかと言っ
たら、悪い点を教えてもらったんだから。ほんとうに作戦指揮をし
ている人はわかるでしょう。会社を経営なさっている人は。理由が
わからなくて、じりじり成績が落ちてくるというとき、それはたま
らんぜ。だからそれがわかるだけでもありがとうと、そう思えばい
いじゃないか。

 それから次だ。わかったら、兵員の逐次投入は絶対だめだぞと教
え込むわけだ。兵員というのは、兵隊の員数だから、おたくの会社
の人、物、金、経営原資。兵員の逐次投入の戒めと言う。これは、
どうしても人間のあさはか知恵では、今、経営学で対投資効果なん
て言うでしょう。あんなことあんまり言うてると、必ずこうなる。
そうしたときは、森田さんのようなすぐれ者に、これだけやったら
会社つぶれるかどうか、先生ちょっとと。それだけ聞いたら、あと
は大きくやらないと。みんなちまちま投資になるんですよ。もう時
間が迫っているからあれですが、戦争で言ったら、ガダルカナルな
んていうのは全く生きた兵員の逐次投入ですね。ほんとうに生きた
悪い最もいい例だ。文法上、誤っていませんね。最も悪い最もいい
例だよ。これは後、西元先生からまたお聞きしておいてちょうだい。
3万余の軍勢を投入ながら、ちまちま投入しているから、結局は1
万弱しか帰れなかったんです。

 私が今後援会長をやっている亀岡偉民君のお父さんというのはガ
ダルカナルの生き残りで、金玉に玉が入っちゃって子供ができない
から、偉民君というのはねえちゃんの子供ですよ。そういうのが戦
争だったらすぐ心配だなとはっきりわかりますけど、民間のところ
ではみんなへ理屈を言っていて、逐次投入を相当やっているんです。

 うちがそうだった、人ごとじゃなくて。ミニ樽の開発したのも、
ギフト券の開発したのも、缶化なんて、昭和37年に、山本為三郎
がこれを知っているから提案して、37歳のときに私は、生でない
と勝てない。これも、発明じゃありませんよ。気づいたわけ。それ
で提案したのが、涙の提案書と出ていますよ。(小が大に勝つ兵法
の実践 かんき出版)

 それで、提案して、そうしたら社長が、山本為三郎が、一般市場
にこの生ビールをほんとうに知得させて、これを開拓していかなけ
ればいけない。どうかこの商品をもって市場に躍り出て、我々が優
位に立ち得るようにラストヘビーをかけていただきたい。私の一生
をかけた仕事であり、私の最後の仕事であることを十分に感得して
いただき、一層の精励を願ってやみませんと言ってくれた。ワンマ
ンだったからね。

 要するに、自信を失ったアサヒビール集団だが、社長がこれくら
いのことを言ったら、大揺れのアサヒであってもベクトルが合って
きます。それで1年間、生ビールをひたむき究めて世に問うたのが
昭和39年の「スタイニー」というんです。瓶だってですよ。これ
も気づきよ。普通のあなた方みたいなスマートなのはロングネック
の瓶(首長瓶)と言うんですよ。上野動物園へ行ったってキリンは
首長でしょう。ロングネックの瓶。これから生でキリンビールを攻
めあけようとするのに金はなくとも、瓶から差別してかかろうと、
ずんぐりむっくりの僕の体に似た瓶にしただけの話だよ。それが
「スタイニー」ですから。そして、ものすごくヒットして、私も2
カ月の短期留学を、アメリカに行かせてもらった。そのときに、コ
ンチネンタル会社へ東洋製罐さんのあっせんで行ってみたら、8割
缶ビールという州もありました。それで真っ先にうちが缶ビールを
提案した。その年だけはさっと頭が上がるんですよ。2年後ぐらい
にキリンビールがやると3倍ほど売れて、またアサヒが沈む。そう
いう全部逐次投入の繰り返しだったのです。人様どころじゃない。

 いずれにせよ、私が営業本部長になったとき、延命さんという社
長が住友銀行から来ていた。営業力が不足しているからアサヒビー
ルは勝てないんだというのが住友銀行さんの結論だった。

 ところが、私は二代目に来た延命さんに、「よくわかります。営
業力が不足なんです。しかし、銀行さんとアサヒビールというのは
商品が違うじゃないですか。おたくの商品は、住友銀行の商品も三
和銀行の商品も全く差がありません。組織は指持し易い仕組みにし
なければなりません。軍隊の組織というのは見えやすい、わかりや
すい組織にして戦う。

 だから、どんな偉い住友銀行さんだって、製造のことなんて、簡
単にわかるはずがありません。営業力が弱いと言うんだから、営業
するほうとつくるほうを分けて営業本部、生産本部として、生産本
部なんていうのはもうプロパーに任せて、そしてその生産本部長た
だ1人しっかり握ると。

 それで、生産本部長、福地さんという私の一期先輩の人がなって、
営業本部長のほうは、営業力が不足していると銀行は判断されてい
るのだから、住友銀行から社長の一番信頼する人を探し出してきて
くださいよと。生意気を言うようだが、私がアサヒの中はギャラン
ティーするからということで、当時の銀座支店長で常務であった佐
藤芳二さんという人を決めて、そして営業本部と生産本部ができた
わけ。

 それで、おまえが言い出しっぺだから素人の佐藤本部長を支えろ
と言うわけ。だけど私は、生ビール論争で、哲学が違うと。この話
をしたらまた時間をとりますから。哲学が違う。「哲学が違うと認
定している僕が同じ参謀本部で指揮をとるというのは、兵隊が迷惑
します。うれしいご指名ですが断ります」と断った。「いつまでお
まえは軍人みたいなことを言っているんだ。そんなおまえの主張す
る生はわかっている」と、こう言うから、「そうですか。それでは、
私、登場しますが、社長たりといえども生論議には一切口出ししな
いこと、一筆書いてください」と言って、その保証をとってあるか
ら、今度、営業――その佐藤さんは病気で1年ももたなかった。そ
れで、支えた副本部長の私が本部長になった、こういうことです。
だから私は今でもそう思っていますよ。「ラガー」で戦っていたら
ハーバード大学のご指摘は正しかったと思います。勝てていないと
思いますよ。生でやったから日本一になれたのです。

 そこで、兵法は兵員の逐次投入の戒を説いています。だから昭和
56年に登場して、まずは商標も変えたじゃないですか。ラベルを
変えるということは大変なことです。中身もコクがあってキレがあ
る。中身も5,000人の味覚調査をして変えたでしょう。

 そして、あの440名の首切りしたんですよ。これが一番つらか
った。440名だって全く理論的な根拠はありませんよ。戦って負
けたら死屍累々とよく言うじゃない。死屍(44)という数字が頭
に浮かぶわけ。しかし、3,000分の44ぐらいですと、逐次投入、
そのもの。皆さんだってゼロをつけると思うんだ。そうしたら、
440は死(4)死(4)ゼロだから、今でも僕は神のつぶやきと
言う。それほどリーダーというのは信心深くなります。

 それで、439名は、当時、水谷という労働組合の委員長に、い
や、組合だけに犠牲を強いない、我々の経営も全く同じ覚悟で臨む
と、東大出の当時取締役人事部長をしていた渡辺格君を440番目
にして、そして神様に、私どもの今でき得る最大の犠牲を払います
と誓ったのです。今、皆さんがうんこのビルと言うとあの工場は、
明治34年に秋田藩主佐竹公の江戸屋敷を工場にしたものなんです。
ですから、あれを墨田区がどうしても欲しいと私が東京支店長のこ
ろから言っていたんです。だから、あれも公共収用のために身をさ
さげますと世間には言うて、社内の者にはあの先輩が築いた城も明
け渡さなければ軍資金がないと二重に表現を変えて立ち上がってい
ったのは、皆さん、昭和61年2月4日です。56年から、ちょっ
と長いじゃないですか。時をためて、エネルギーをためて、出すす
べはすべてやったと自負できるぐらいのことをして、だから最後の
決戦と思っていただければいいわけだ。61年2月4日というのは、
私がほれた山本為三郎社長の命日だったのです。それが皆さんに青
木をキレにして尾崎をコクにしたフィルムを流したときです。

 そうしたら、ハーバードがだめだというアサヒビールが、昭和
61年の数字を見てください、日本のビール業界の伸び率の3.8
倍の成績をいただいた。へなちょこアサヒビールが。3.8倍とい
う数字は重いですよ。というのは、その年伸びたもので満足せずに、
キリン、サッポロ、サントリーの分を全部いろいろ伸びるのよりも
食い込んでやってこないと3.8倍になりません。だから業界中、
我も敵もびっくりした成績をいただいたのです。

 そのびっくりしたときに黙っていてもだめなのね。さっき申し上
げたように、組織というのは、勢いは勢い、勝ちは勝ちを呼ぶ大原
則があるんですから、我々は直ちに、へなちょことは言いませんで
したけど、我々アサヒビールごときでもこんな業績をいただいたの
には味の秘密があります、それは酵母でしたと言って、新聞広告。
これ、卵型の黄色い酵母を一面広告に打ち出したあの年です。

 それで、これも皆さんには解説しないとわからないと思いますが、
今までビール業界というのは美人を使って、それでテレビがほとん
どの媒体だった。チャカチャカやって、それで皆さんが飲みたくな
るように仕向けている。結果を見れば、飲みたくなった人の六、七
割はキリンビールさんをお飲みになっていた。だから強者と全く同
じ論理で展開したら、みんな強者が得するんです。我々だってドラ
イ戦争というのをうちが仕掛けて、みんなまねしてきたから。あれ、
騒げば騒ぐほどうちに利益が来た。うちはまだトップに行っていな
いんだけど、わかりました。

 一番きわめつけで言えば、みんな大きい会社、権威のある会社で、
ビール業界は誕生してからちょうど130年ほどの歴史なんです。
だけど、日本人は商品知識が暗いことをいいことにして、ビールは
生で飲むのが正しいのに、それを60度のおふろにアバウト1時間
入れて、パストリゼーションと呼んでいたんです。そして殺菌して、
これが正しい飲み方だとうそついて数十年たっていた。それを、我
々が追い詰められて、まさに死なんとしたから、気づいて生を仕掛
けていったら、正しいことだから、アサヒビールがやりやすい道で
生なんではなくて、お客さんから見て正しいことだから、これを経
営学ではマーケットインと言っているんです。だから三波春夫が言
う「お客様は神様」だという方程式ですよ。それまではうちも大日
本麦酒で、農学博士もたくさんいたわけ。だからうちは天下一のビ
ールをつくると。いくら農学博士が天下一と言ったって、お客さん
がうまいと認めてくれない限り、1本のビールの商いも成立してい
ないじゃないですか。こういうのをマーケットインの正しさに対し
てプロダクトアウトと言う。そのきわめつけが戦争ですよ。戦争は
だから敵さんが情報を斥候まで出して集めて。だから兵法の場とい
うのは、100%勝って初めて正義が貫けるものなのね。

 ですから、私どもも、きょうはこの程度ですけど、しかし「小が
大」という題がついているだけに言いますと、先ほど言いましたよ
うに、戦うときは組織は大きいほうが有利とは孫子が昔から強調し
ている。しかし小でも勝てるという、4つの道を我々の先輩は発見
して教えています。まず1つは少数精鋭。

 2つ目は、局所優勢と言って、おたくの会社で3種類ぐらい営業
科目があったとしたら、戦争に近いほど商売が激しくなってきたと
きは、あなたの会社の得手の部分に経営原資は傾斜集中しなさいと
教えている。

 3番目は、個別撃破で攻めてみる。ただいたずらに不景気だヘチ
マだと言っているんじゃなくて、日露戦争の日本海海戦のように、
強い敵を分割して、個別にバルチック艦隊が来るまでにウラジオス
トク艦隊を旅順港でつぶしておいて、そしてバルチック艦隊を迎え
入れたからこそ世紀の勝利につながったという、あのように経営も
個別撃破が攻めるという知恵をひとつ気がついたらどうじゃという
のが3つ目です。

 4つ目は、いたずらに戦っていったら大きいほうが必ず有利なん
です。だから敵の考えない手を考えて打ってみろと。奇襲戦法とで
も名づけたらいかがでしょう。私どもは、もう強い、強いキリンだ
から、鼻の先には10人に1人でもいい、20人に1人でもいいわ
と言って容器戦争を仕掛けたんです。だから敵の考えない手でやっ
たわけ。そうしたら、あの強いキリンビールも地球儀だとか容器戦
争に参加してきました。だから、このように目の先の変わった容器
のビールを出すだけでも強いキリンの集中度が崩れるわけです。だ
から兵法で、小さいものが大きいものに勝つときは、可能な限り早
く主導の位置を築けと言うんです。主導の位置を。いたされている
ようでいたす。

 もっと具体的に言うと、アサヒビールが「スーパードライ」を出
したころって、キリンの小西社長さんは生なんか邪道だとおっしゃ
っていた。しかし、キリンビールさんだってビールは生で正しいこ
とはわかっています。しかし、圧倒的に「ラガー」で王者の位置を
占めているものは、余計なことをしないほうが得策。その論理だか
ら、自分が有利だから言っていたんだけど、我々がどんどん生作戦
を続けてきたときに、キリンビールさん、終始それで貫けばよかっ
たものの、「一番搾り」を出した瞬間に、中身を言うと、アサヒビ
ールの売り上げよりはるかに多くて、企業内容がうちと比較できな
いほど立派なキリンビールが、へなちょこアサヒビールに主導の位
置を奪われた瞬間なんです。だから、そのときにもこれがわかって
いて、皆さん新聞やテレビを見ていたらすぐわかると思うんです。
キリンビールさんは、若者たちはもう絶対生の時代が商品として正
しいのだから、先の長い我々の願いとして、ぜひ「一番搾りの生」
にシフトしてほしいと叫んでいたに違いない。

 ところが、大企業というのは、大体長くて6年、普通は4年ぐら
いの社長の任期だから、その間に「ラガー」で絶対的な地位を築い
たものが大崩れするような作戦をとるはずがありません。だから、
その間、こっちから見ていると、「一番搾り」に広告費の大半をか
けてみる。そうしたらガタガタっと「ラガー」が落ちてくる。これ
はまずいなと言って「ラガー」にまた力を入れてみる。それで、そ
の「一番搾り」のほうは手を抜いてみる。こういうことは、うちの
ほうから見てはもっけの幸い。だから、弱い人が強い人に仕掛ける
ときは、いち早く自分が主導の位置を築く。身は小さいけど、中身
は大したことないけど、敵をして精神的不安感を感じさせるポジシ
ョンを築くことを主導の位置を築くと言う。

 だから、昔だってやっている。千早城でやって、少ない軍勢です
るときに、たき火だとかいろいろたいて軍を大きく見せて。そして
攻めるほうというのは、右から2番目の切り口で攻めると決めてお
けば、ここへ一点集中できるわけだから。そうすると、10倍の敵
だって10分の1に分解している切り口にすれば、その切り口は対
等で戦ができるわけじゃないの。ですから、こういう教えもきちん
と我々の先人たちが教えてくれますから、どうぞひとつ参考にして
ください。

 ご静聴ありがとうございました。(拍手)

(了)

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