No.114 2018年2月2日発行 | 日本ナレッジ・マネジメント学会

メールマガジン

No.114 2018年2月2日発行

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   日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 
   第114号  2018/2/2
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 編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目 次

◆年初雑感
「日本企業は未曽有のチャンスに遭遇、ダイナミックなイノベーションへの道」
◆WICRSとWICI-J 及び KMSJ の3組織共催国際シンポジュウム報告
◆AI(人工知能)を包含するEmbedded Knowledeg(埋め込み知)と言う視点

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◆?年初雑感?                          
「日本企業は未曽有のチャンスに遭遇、ダイナミックなイノベーションへの道」
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事長 久米克彦)

 昨年末浜松のスズキ(株)において、当学会の「組織知の形成・持続研究部会」活動の一環で打ち合わせを行い新幹線で往復しました。
 東海道新幹線は東京から大阪まで全部で17駅、「東海道53次」的に言えば17次です。
 ところで何故東海道53次としたのか。不思議に思い調べてみると結構曰く因縁があるようです。無論宿場や村落の在り方や間隔が基本にあったと思われますが、53次そのものは仏教に由来しているようです。善財童子という人が文殊菩薩に教えを受けた時に53人の善智識(様々な指導者のことをいう)に教えを受けるようにと言われたそうです。面白いのは善智識には必ずしも高邁な学者
だけでなく、市井の人間や岡場所の遊女も含まれています。まさに人にとっては色々な人間に学ぶ態度が重要であり、「善智識」という表示も暗示的です。

 昨年12月2日にWICI JapanやWICRS(早稲田大学知的資本研究会)との共催で、当学会の20周年記念をかねて国際シンポジウムを開催し、色々な方々に参加していただきました。
 その際に開会挨拶をかねて、私が問題意識としていたのは日本の労働生産性の低下の問題です。もはや昔のような日本の優越性は失われ、年々低下している事実を申し上げました。日本は1995年、2000年には1位だったのが、2005年には7位、2010年10位、2015年には14位となっています。水準そのものは95千ドル前後で若干のプラスないし横ばいで減少しているわけではないのですが、他国の生産性上昇がはるかに日本のそれを上回っているのです。新興国を含んだ世界銀行2016年統計ではマルタやイラクの間の27位です。(就業者一人当たりの労働生産性)これらの労働生産性統計(産業別)で見ても、これまで国際的にその優越性にかなり自信のあった製造業分野ですが、1995年から2015年までの10年間の主要国比較ではフランスの3%増、米国の2.9%に次ぐ2.8%と優位性を失いつつあります。特に新興国を含めての統計では更にその地位は低下しています。
 今日本は労働人口の減少で各企業ともに人手不足が大きな課題になっていますが、一方でこの課題は人手に代わるIOT導入、AI導入などICT活用の大きなチャンスになります。ここのところの国際比較で遅れをとっていた日本が、現況を大きく変えるタイミングでもあります。何よりも労働生産性を大きく前進させることが出来るということです。これを可能にするのが色々な企業や組織とのオープンイノベーション・ソーシャルイノベーションです。その中で特に重要なことは人間の持つ創造性とICT活用による効率性・生産性アップとのコラボレーション体制を如何に構築するかです。下手に人手不足を海外からの安い労働で補おうとすれば、真のイノベーションからは遠ざかるだけです。

 スズキという自動車会社がありますが、インドでの生産・販売シェアが高いために労働生産性を比較的高く保っている企業の一つであります。インドでモディ首相の「Make in India」政策に呼応し、従来のグルガオン工場、マネサール3工場に加え、昨年グジャラット州に新4輪工場を作りました。その用地内に東芝、デンソーと協力してリチウムイオン電池パック製造会社を設立、生産を始めていますが、更にグジャラット工場でEVの本格投入を2020年ごろに予定しています。トヨタのEV技術とスズキの生産ノウハウとマルチ・スズキの販売ノウハウのコラボレーションがベースです。スズキの株価推移を見ていると、自動車企業の生き残りにかけたこうしたダイナミックな動きを物語っています。(2009年年初には1269円、2012年年初1630円、2015年年初3640円、2018年6600円)誠に企業の動きは驚くほどダイナミックなもので、今年こそ、多くの日本企業のダイナミックなイノベーションが顕在化する年になって欲しいと思う次第です。

 

◆WICRSとWICI-J 及び KMSJ の3組織共催国際シンポジュウム報告
(日本ナレッジ・マネジメント学会20周年記念事業 実行委員長 安部博文)

 20周年記念事業は、WICRSとWICI-J 及び KMSJ の3組織共催国際シンポジウムとして実施した。テーマは「オープン・イノベーション/ソーシャル・イノベーションを支えるナレッジ・マネジメント― 日本ナレッジ・マネジメント学会創立20周年記念によせて ―」でした。

 久米理事長による挨拶に続いて、野中郁次郎先生による学会向けのビデオメッセージがありました。
 基調講演は、東京大学大学院教授 の 森川博之氏 が「 IoT?イノベーションが事業を変える 」と題して行いました。
 特別講演  & ディスカッション <1>ではオムロン(株)代表取締役執行役員専務CTO・宮田喜一郎氏が「オムロンが目指す新しいイノベーションマネジメント」をテーマにした講演を行い、続いて八田光啓幹事と熊倉久雄会員がポイント整理 & コメントを行いました。
 特別講演 & ディスカッション<2>では 「デジタル化による企業・社会の変容とナレッジ・マネジメント」をテーマとして、解説を季風経営研究所代表の船橋智氏が行い、パリ南大学教授・Prof. Ahmed Bounfourとジョージメイスン大学准教授・エスキル氏、町井美也子会員がそれぞれ論を展開しました。

 午後に入り、特別講演 & ディスカッション<3>では 、内閣府知的財産戦略推進事務局長の住田孝之氏が「知識創造社会のビジョンと戦略」をテーマに講演を行い、続いて三菱モルガン・スタンレー証券(株)チーフリサーチアドバイザー・松島憲之氏、荒木聖史幹事、田原裕子会員を交えたディスカッションが行われました。
 午後の後半になりプログラムは、KMSJ研究分科会に入りました。まず高山千弘理事が メインテーマの柱であるオープンイノベーションの立場から「知識創造による共存在社会の実現」を報告しました。続いて 西原文乃理事がメインテーマのもう一つの柱であるソーシャルイノベーションの立場から「 ソーシャルイノベーションは一人ひとりの強い想いと勇気ある一歩から始まる 」と題して報告しました。
 最後の総括パネルディスカッション は、 山崎秀夫副理事長が「ナレッジ・マネジメントがこれから担う役割」と題したプレゼンで今回の記念事業の理論的中核を示しました。続いてパネリストに住田孝之氏、Ahmed Bounfour氏、エスキル氏、高山千弘理事、西原文乃理事を迎え、山崎副理事長の司会の元、活発な議論とフロアとのディスカッションを展開しました。
 閉会挨拶では花堂会長が学会の歩みとこれからの展望の概説を行い、今回の記念行事を締めくくりました。
 終了後は、早大キャンパス内で懇親会が開催され、交流の輪を広げることができました。
 本記念シンポにご参加くださいました皆様、シンポの実施でご協力を頂きました関係者、役員、登壇者の皆さま、実行委員会の皆さまに感謝いたします。

以上(安部博文)

●20周年のシンポジウム総括パネルディスカッションの報告
(モデレーター 日本ナレッジ・マネジメント学会副理事長 山崎秀夫)

 総括パネルディスカッションは、WICI花堂先生の全体アレンジ要求に忠実に従って実施しました。(本企画の枠組みはWICI主体です。)当初予定されていた住田孝之氏、Ahmed Bounfour氏、高山千弘理事、西原文乃理事に加えてスエーデンからエスキル氏を迎えての活発な討論となりました。住田氏からは「事前の打ち合わせに関するサウンド」がありましたが、今回はサプライズ演出をする心づもりでしたので敢えて実施しませんでした。(尚、住田氏には事前に山崎の発表予定内容をお見せしています。)

 最初約15分程度「Some KM Big Trend from KMGN & Others and New Definition of Knowledge」と言うタイトルにて、タイで行われたKMGN(ナレッジマネジメント・グローバルネットワーク)のトレンドを説明し、その後WICIのトラスト(信頼)やレピュテーション(評判)に代表される資源ベース理論、知識ベース理論からAI(人工知能)を含めた新しい産業革命下での知識の定義上の不協和音(Discordance)や違和感に関して説明し、人工知能の登場を包摂したEMBEDDED KNOWLEDGE (埋め込み知)の知識への定義追加の必要性について述べました。そしてその後はEMBEDDED KNOWLEDGEの提案により各参加者が興奮した為、それを中心に活発な議論が行われました。

 EMBEDDED KNOWLEDGEとは組織文化やビジネスプロセス、製品やサービス、制度などに埋め込まれた知識の事です。当然、AIを含む情報システムの影響も視点として含まれます。(AIはKMSJにおいては技術論ではなく、知識ベース論で論じられるべきだとこの場で主張しました。)EMBEDDED KNOWLEDGE は古くからある知識定義の一つであり、欧米では最近、学習する組織論などで活発に再評価が行われています。しかしわが国ではほとんど論じられた形跡がない新しい知識の視点でした。企業の組織文化に埋め込まれたEMBEDDED KNOWLEDGEは、構造主義やポスト構造主義に基づくものであり、社員の暗黙知の発揮の方向性、スピード、場合によっては抑圧する役目を果たします。また新入社員はEMBEDDED KNOWLEDGEから各部門におけるふるまい方の基本を学びます。(価値観、行動規範、思考様式など)今回の全体発表の中ではオムロンの宮田さんがおっしゃっていたオムロンの「芸風」(様々な提案の採否を決める隠れた基準)などがそれにあたると言った説明をしました。またシリコンバレーや深セン(中国)、スタートアップ企業が速く、日本の大手企業が遅いイノベーションのスピード格差もEMBEDDED KNOWLEDGEのなせる業の違いとして明確に説明できます。

 それに基づく議論は活発であり、面白い傾向として文化の視点から論じる参加者とAIなど情報システムの視点から論じる参加者に分かれました。住田さんや高山さん、西原さんはどちらかと言えば文化の視点から論じられていました。とりわけ高山さんはエーザイにいてSECIモデルを回す場合、その基礎をなす組織文化的な知識と言う問題意識をエーザイ自身が持っており、EMBEDDED KNOWLEDGEはそれにあたるのではないかと明確な指摘をされていました。一方Ahmed Bounfour氏やエスキル氏はAIや情報システムの組み込まれたビジネスプロセスの視点から、欧州でも同じような議論があると論じられていたのが印象的でした。EMBEDDED KNOWLEDGEを除いては、西原さんの物語に関する説明も印象的でした。従来、形式知の定義は客観的、論理的な内容だけでしたが、野中先生との議論の中で「柔らかい物語の視点が自然に出てきた」と仰っていました。EMBEDDED KNOWLEDGEもしばしば「神話や物語」として理解されるケースが多い為、印象に残った次第です。 以上

★事務局より
 発表資料は一部を除き学会ホームページで公開しています。会員専用ページへ移行する予定ですので、未見の方は早めに参照をお願いします(転載禁止)。
●当日資料一覧⇒ http://www.kmsj.org/news/2017/12/---20--.html

また、当日の写真レポートは以下のURLに掲載いたしております。ご覧ください。
●写真レポート⇒ http://www.kmsj.org/archive/magazine114_1.pdf

 

◆AI(人工知能)を包含するEmbedded Knowledeg(埋め込み知)と言う視点
第一回 何故Embedded Knowledeg(埋め込み知)視点がKM世界で注目されるのか
(日本ナレッジ・マネジメント学会副理事長 山崎秀夫)

 1995年に出版された「The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation(知識創造企業)」(著者、野中郁次郎、一橋大学名誉教授、日本学士院会員、竹内弘高、ハーバード大学経営大学院教授、一橋大学名誉教授の共著)は、世界中の経営者に大きな衝撃を与え、ナレッジマネジメント運動のきっかけを世にもたらしました。本書籍は第二次産業革命の時代(モノつくりによる大量生産・大量消費時代)における日本企業のモノつくりの強さの秘密は知識の活用(とりわけ暗黙知)にあると述べたものです。従来の知識論はプラトン以来の真理の探究(形式知)を中心としたものでした。一方野中博士らの新理論は「知識は身体に宿る」と主張した点がユニークであり、後にこの動きはKM2.0などと呼ばれるようになります。(これは欧米の解釈ですが、Web2.0はKM実現のためのツールであると言う見方から来ています。)KM2.0とは知識を個人の身体や頭脳に住み込んだもの(暗黙知)と考え、それをデータベースに展開して共有する(形式知)と言う発想です。この頃、学習する組織論もありましたが、この理論の弱点は、SECIモデルのように組織の中での知識の所在場所が明確でなかった点でしょう。一方ピーター・ドラッガーの提唱した知識ワーカーも、暗黙知と形式知に基礎を置くSECIモデルの登場以来、暗黙知と形式知の関連で理解されてきました。

 またナレッジマネジメント運動は、経営学にも大きな影響を与えています。企業経営戦略を評価する見方は、従来のマイケル・ポーターによる企業の市場でのポジショニングを重視するポジショニング戦略やジェイ・バーニーの経営資源を重視する資源ベース論(Resource Based View)があります。そしてナレッジマネジメント運動の影響により、資源ベース論の中からとりわけ知識資源に焦点を当てた知識ベース論(Knowledge Based View)が登場しました。その代表がWICIと考えられます。

 ナレッジマネジメント運動の初期においては、知識の定義は暗黙知(個人の中に存在する)と形式知(形になった真理)の二つしかありませんでした。そしてナレッジマネジメント運動は暗黙知と形式知と呼ばれる二つの知識タイプの上に軸足を置いて存立していたと考えられます。

 しかしニューエコノミーやインダストリー4.0と呼ばれる新しい産業革命の時代を迎えて、以下のような幾つかの大きな変化が発生し、ナレッジマネジメント運動の土台を揺るがしています。

●続きは⇒ http://www.kmsj.org/archive/magazine114_2.pdf

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<編集後記>
今号は1月中に発行する予定でしたが、遅れましてすみませんでした。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。積極的なご投稿歓迎いたします。
メルマガの内容についてのご意見、ご感想及びメールアドレスの変更などは
以下のアドレスにお願いします。          (編集長 松本 優)
学会アドレス:kms@gc4.so-net.ne.jp

編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局(森田 隆夫)
問合先 日本ナレッジ・マネジメント学会事務局
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