No.60 2012年8月20日発行 | 日本ナレッジ・マネジメント学会

メールマガジン

No.60 2012年8月20日発行

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   日本ナレッジ・マネジメント学会メールマガジン 
   第60号  2012/8/20
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 編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局

□ 目 次
◆第20回知の創造研究会の概要報告
◆『ナレッジ・マネジメント研究年報』第12号の投稿募集について
◆<特別寄稿>スマート革命―サービス支配論理によるポストパソコン時代の始まり―その2

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◆第20回知の創造研究会の概要報告
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 知の創造研究部会長 植木英雄)

第20回知の創造研究会は7月28日にエーザイ会議室で盛会に行われました。今
回は、全部で5編の報告があり、活発な質疑があり、土曜日の午後1時過ぎから
6時まで延長となりました。力作の発表をされた報告者の皆さんと会場の準備
をして頂きましたエーザイ理事の高山さんにも感謝をいたします。

当初、30名を超す参加申込者があり、会場の席の確保を心配し、当日は猛暑で
欠席の方もおられましたが、一般の参加者も数名交えて、活発な質疑が展開さ
れました。

最初の報告では、横澤公道会員(東京大学特任助教)から「改善能力の海外移
転」に関する最新の研究成果(オランダの大学院の博士論文の要旨)を発表し
て頂きました。長年に及ぶ実証的な研究成果として、オランダにおける日系企
業15社の実態調査から理論的にまとめて実務的、理論的な含意を提示されまし
た。

第2部では、本研究部会の研究プロジェクトの研究成果の一端を次の5編の発表
と質疑で行いました。
【創造的な経営文化の醸成と知の創造について】
事例 1 花王における知の創造と経営革新(矢澤洋一・八代英美会員)
事例 2 エーザイの経営理念と知の創造(高山千弘 会員)
事例 3 オムロンの企業理念に基づく知の創造(植木英雄・佐脇英志会員)
【学習するダイナミックな場の展開について】
事例 4 トヨタウェイの組織浸透と学習する場の活用(植木真理子会員)
【バリュー・エンジニアリング活動における知の創造について】
事例 5 日立建機とフジタのVE活動事例とKMの融合(児玉啓会員)

第3部では「知の創造の実践と経営革新について」総括討論を行い、3年間に及
ぶ研究プロジェクトの総括をしました。終了後は、懇親会を行い大変盛り上が
った雰囲気の中で参加者の知的交流を深めました。

本研究部会も発足から4年が経過しました。今年は、新たな研究課題を共有し
て、第2フェーズを始める年になります。

知の創造と変革の実現に向けた課題は、現代の日本と世界にとって、より重要
性を増しております。昨年の東日本大震災以来、地域コミュニティとの連携と
共生のマインドが鼓舞され、激動する地球環境と世界経済社会のパラダイムシ
フトの過渡期を迎えております。そこで、あらゆる組織体と個人はクリ―エー
ティブマインドを醸成して、新しい持続的な発展を目指すパラダイムの構築に
向けて挑戦することが肝要となります。

先日のロンドンオリンピックの開会式で204の国と地域の聖火が一つに融合し
て、世界の人々が繋がる感動体験を共有しましたが、この感動の共感はマイン
ドチェンジのきっかけとなります。

閉塞感が漂っているように見える21世紀は、発想を変えれば多様な世界の文明
と文化の交流・融合から新しいイノベーションを創発するチャレンジングで感
動的な夢と希望に満ちた社会が実現できる時代にもなります。

本研究部会の研究活動や成果がこのような感動的な社会を実現する「知の創造
と変革」に寄与出来ることを願っております。

植木英雄(東京経済大学教授)
kmsj理事・知の創造研究部会長
連絡先:h-21ueki@tku.ac.jp


・知の創造研究部会 7/28の感想(富士通ラーニングメディア 五十嵐)

7/28の研究部会に参加させていただき、様々な企業事例により、深く考えるき
っかけと幅広い視座をいただきました。最後の懇親会は、皆さまの業務や興味
のあることなど、パーソナリティの部分も知ることが出来て、とても有意義で
した。

研究部会に参加し、1週間経ちましたが、いまだ現在も考えていることが2点あ
ります。

1つ目:
日本企業が海外展開していくためには、海外でマネジメントする立場の人がキ
ーマンであり、その人に対する効果的な「育成」が必要である。
これは、横澤先生、植木真理子先生が話されていたことですが、事例から非常
に納得しました。企業の目的にマッチした「育成」は重要ですよね。
それを踏まえて、さらに今後、私も調査していきたいと思ったことは、日本と
海外の人事制度、法律にかなり違いがあり、その点と「育成」についてどのよ
うに折り合いをつけていくのがベストなのか、ということです。
私は以前イギリスでインターンとして、働いていたとき、日本以上に従業員の
転職が多く、マネージャーでさえも次のキャリアアップのために転職する人も
おり、驚いたことを覚えています。育成にお金をかけた場合、その人にやめら
れてしまってはかなり費用対効果の点で打撃を受けるのではないでしょうか。
海外の企業もリスクを考えて運用しているのかもしれませんが、とにかく、日
本企業の海外展開のためのサクセッションプランニングの進め方について、と
ても興味がでてきたきっかけになりました。

海外の従業員が各日本企業で働くことにどんな価値や魅力を感じているか?と
いったことも調査してみたいですね。その点がクリアになると、「長くその企
業でがんばろう!」と思ってもらえる施策も検討していけるかもしれませんね。

2つ目:
高山さんが紹介くださったエーザイの理念経営の実践の取り組みはすばらしい
ですね。ここまで従業員が患者さんと接して、患者さんの立場に立って自分が
何をすべきかを真剣に考え、実践できる場を提供していることに感激しました。
私は、人材育成企業に勤めており、日々感じていますが、やはり、いかに本人
が真剣になれる「場」を提供するかが、育成には重要なのですよね。そういう
「場」をいかに企画・設計するかが非常に考えどころでもあります。今回は時
間的にちょっと難しかったですが、今度ひとつひとつの事例についてじっくり
お話をお伺いさせていただけたらと考えております。

また次回はエスノグラフィーの勉強会とのことで、今からわくわくしています。
どうぞよろしくお願いいたします!

・「第20回知の創造研究部会」の様子?写真集はこちらです。
(日本ナレッジ・マネジメント学会理事 メルマガ編集長 松本 優)
http://www.kmsj.org/archive/20120817photo.pdf

 

◆『ナレッジ・マネジメント研究年報』第12号の投稿募集について
(『ナレッジ・マネジメント研究年報』 編集委員長 植木英雄)

『ナレッジ・マネジメント研究年報』第12号の投稿(論文および研究ノート)
を募集いたします。投稿規程と執筆要項(学会ホームページリンク先に掲載)
に基づき、2012年10月31日(水)までに投稿原稿とメディアを学会事務局研究
年報編集委員会宛てに送付してください。

なお、投稿を希望される方は9月28日(金)までに投稿の意思と題名を編集委
員長まで事前にメールでお知らせ願います。
(編集計画の参考にさせていただきます。)
投稿原稿は最近年の年次大会、研究部会等の発表者以外でも投稿できます。

会員の皆さんの奮っての投稿をお待ちしております。
「ナレッジ・マネジメント研究年報」投稿規定
http://www.kmsj.org/news/nenpou_kitei.pdf
「ナレッジ・マネジメント研究年報」執筆要項
http://www.kmsj.org/news/nenpou_youkou.pdf

連絡先:研究年報編集委員長 植木英雄 E-Mail: h-21ueki@tku.ac.jp
送付先:日本ナレッジ・マネジメント学会事務局 研究年報編集委員会 宛
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3-1-10田中ビル4階

 

<特別寄稿>
◆スマート革命―サービス支配論理によるポストパソコン時代の始まり― その2
(日本ナレッジ・マネジメント学会専務理事 山崎 秀夫)

メディア論の視点から見ればスマート革命は一種の社会革命であり、人々のラ
イフスタイルが敏感に変化します。個人コンピューティングの新しい形が現れ
るなどICT革命が生活者領域に影響する最先端の大切な分野であると考えられ
ます。
この領域で国内家電各社が敗退することは残念ですが、日本の産業はサービス
領域で生き残れば良いと言う見方も出来ます。


1、黒字の重電と一体何が異なるのか?
面白いのは日立、三菱電機、東芝の三社が得意としている重電の分野では、各
社黒字決算であると言う点でしょう。産業機械などを生産し販売するこの領域
では、システムや保守サービスなどがセットで提供されており、一種のサービ
ス支配論理が働いています。しかし最も重要な点は、重電のような企業対企業
のビジネス領域の特徴は、社会的速度の遅さにあります。即ち稟議制度などの
ボトムアップ、組織の壁、官僚制などを背負い、意思決定スピードが遅い日本
企業でも十分対処できるエコシステム(生態系)だと言う点です。
国内の恐竜型大手メーカーは今後この領域で稼ぐのに適しているのかもしれま
せん。


2、 スマート革命の勝ち組企業
そもそもポストパソコン時代のイノベーションモデル(事業モデル)はアップ
ルの故スチーブ・ジョブズ氏によって形成されました。アップルはポストパソ
コン時代を見据えて生活者中心のスマート機器(音楽端末やスマートフォン、
タブレット、パソコン、スマートテレビ)などを自社でデザインし、設計しま
した。その一方で部品の調達(モジュール部品調達)と生産はEMS(電子機器
の生産受託サービス)を活用しています。この点からは非常にオープンな水平
分業企業です。しかし一方でスマート機器の上に根が生えたサービスに関して
は自社のスマート機器との摺り合わせ生産を徹底しています。

判り易く申し上げればスマート機器販売で約50%前後の粗利を稼ぐ秘密は、ネ
ットサービスと相互に一体化したスマート機器群で顧客を囲い込むアップルの
戦略にあります。

既にアイパッド用にアップルから映画やドラマを購入した生活者の一定割合は、
将来アップルのスマートテレビの本格版が開発されれば、サービス支配論理の
下、アップルテレビを購入する可能性があります。その為米国家庭の三分の一
に何らかの商品が入っているアップルは、確実に一定のテレビ市場のシェアを
取ると見られています。何故ならアップルテレビをネットツ繋いだ瞬間、既に
購買済みの自分の大好きな映画やドラマがテレビ画面に映し出されるからです。


余談ですが国内メーカーが得意なデジタルカメラもインターネット接続(WiFi
ネット接続)の時代になっています。デジカメもスマートカメラの時代を迎え
ています。

注目すべきは米国などでサムスンのミラーレスレンズ版のスマートカメラが、
過去積み上げられた光学特許を持つ優秀な日本勢を蹴散らし、一定の市場シェ
アを取るだろうと見られている点でしょう。現在、日本勢は市場の86%を占め
ています。

その理由はサムスンのスマートカメラは、徹底してサムスン製の機器とのM2M
結合(繋がり革命)を追求し、同時にインターネットのサービスとの連結を追
及しているからです。父親が息子のサッカーの写真をとれば、直ぐに母親のス
マートフォンに送ったり、SNSに公開したり、パーソナルクラウドサービスに
送って、お爺さんの写真立てに送付する訳です。つまりサムスンのスマート機
器の連合群と言わばレーダーとも言うべきネットサービスの中を自由に写真が
飛び交う戦いを開始しています。一種のサムスンスマート機器連合艦隊対日本
の戦艦大和やゼロ戦と言った戦いの構図です。個としては絶対的に強い国内の
デジタルカメラメーカーですが、米国の一部は一定のサムスンの勝利を予想し
ています。


一方アップルの音楽市場における成功を見て電子書籍の領域で勝ったのは、ア
マゾンでした。そしてタブレットの販売ではプロが作ったサムソン製のタブレ
ットを凌いでアマゾンのプライベートブランドのタブレットが良く売れていま
す。機能面や性能面では無く、その上に根が生えたサービスが競争力の源泉で
あり、その為「仕様書の死」が唱えられ始めました。インターネットサービス
企業が制作したタブレットがプロの家電メーカーの製品よりも、仕様面で劣る
にも関わらず良く売れる時代が来た訳です。

2012年7月、国内の楽天がカナダの電子書籍ベンチャーであるコボ社を買収し
て、電子書籍時代には機器から電子書店、アフターサービスまで一貫した閉鎖
的なサービスで囲い込みに出た理由も良くわかります。電子書籍の次はメディ
アビジネスであり、その次はいよいよネット通販の囲い込み時代にはいるでし
ょう。


次回はグーグルやマイクロソフトがスマート機器販売に出た理由、フェースブ
ックがスマートフォンを作ると見られている理由を説明します。


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<編集後記>
残暑お見舞い申し上げます。数日前まで日中は太陽で暑く、夜は深夜まで
日の丸で熱い日が続きましたね。
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以下のアドレスにお願いします           (編集長 松本 優)

学会アドレス:kms@gc4.so-net.ne.jp
編集・発行:日本ナレッジ・マネジメント学会(KMSJ)事務局(森田 隆夫)
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